「アルバムづくりが子育てに与える影響」に関する研究は、「写真・アルバムと関わることは子ども成長にとって良い影響を与えるといえる」ことが明らかとなりました。
その調査・分析・考察についてご紹介します。
~乳幼児を持つ保護者と大学生の自己形成への影響の点より~
大阪教育大学 修士論文 (石田文弥/指導教官 小崎恭弘)より抜粋
以下の点を通して、アルバムづくりが子育てに与える影響を研究します。
保護者にとっての写真・アルバムの作成と所持することの意義を明らかにする。
大学生と成長と「写真・アルバム」の関連性を明らかにする。
アルバムの子育て支援ツールとしての有用性を検討する。
文献調査
写真・アルバムの歴史的動向や役割の調査。
予備調査
本調査に向けての予備調査
※詳しくは「Research Part.1」をご覧ください。
保護者・学生向け調査
写真・アルバムとの関わり方や意識、子育て感などに関するアンケート。
調査結果の分析と考察
アンケート結果からの分析
まとめ
分析結果からの研究に関するまとめ
このページでは、「保護者・学生向け調査」からご紹介します。
兵庫県・大阪府2都市の幼稚園・保育園・認定子ども園に子ども通わせる保護者を対象にアンケートを行いました。
有効回答者数
計645人
・・・ 大多数がスマホと回答
撮影に利用する機器は、スマホが圧倒的に多いことが明らかになりました。
デジカメや一眼レフについては、「よく使う」という人が少なく、反対に「使わない」という否定群が高まる結果となり、
保護者が「カメラ」という機器から離れつつあることが明確になりました。
・・・ 約3割が現像に肯定的な回答
写真の現像頻度について、半数以上が現像をしていないと感じている一方で肯定的な回答も3割近くあることから、 一定数の保護者にとっては写真の現像は日常的に行われている行為と言えます。
・・・ こどものみのアルバムが最も多い。
アルバムの種類ごとの所持数に関して、子どものみのアルバムが最も所持数が多く、また、2~4冊と複数冊を所持していることが分かりました。
一方で、子どものアルバムが1冊も無いという回答も見受けられました。
・・・「携帯電話(スマホ)」が圧倒的も、アルバムも活用。
写真やデータを見る頻度と機器と関係では、携帯電話(スマホ)が最も使用されている事が分かりました。
これは日常的に使用・撮影され、その後の閲覧も容易である為と思われます。
次いで、閲覧頻度の高いアルバムについても、時々使用しているという層が多い結果となりました。
スマホでの閲覧がメインでありながら、必要に応じてアルバムも活用されていることを示しています。
・・・ 利便性ではデジタル、感情面はアナログ写真が優性
デジタル写真とアナログ写真にそれぞれの優位性のイメージを調査しました。
結果、デジタルは収納や加工のしやすさや、出力の必要が無いという点で費用が掛からない等、「利便性」という点で評価が高くなりました。
一方で、アナログ写真は利便性では評価は得られないものの、愛着や思い出の品としての面で、ただの記録ではなく「感情」の面において、評価が高い結果となりました。
これは"モノ"に対して人間が愛着を持つという点から繋がった結果と考えられます。
子育ての質問については、多くの保護者が今の子育てに対し、肯定的な回答をしていることが分かります。
しかし、一方で自分の時間がなく、また、仕事や趣味の制約を受けたり、育児に自信が持てないなど、生活との両立や実質的な不安を持っていることが分かります。
この質問と、写真・アルバムに関する質問との関係を分析することで、その関わりと影響について検討を行います。
国立大学法人大阪教育大学に通う学生にアンケートを行いました。
有効回答者数
計354人
・・・ 大多数が「スマホ」で「頻繁に使用する」と回答
写真を見る為の機器とその頻度では、「スマホ」が「頻繁に使用する」という回答が最も多く、ほとんどの学生はスマホで写真を見る機会があることが分かります。
次いで、「ノートPC」、「写真を貼ったアルバム」について、「ときどき使用する」の割合が高く、この二つは比較的利用されている傾向にあると言えます。
・・・ 大多数がスマホと回答
撮影に使用する機器は「スマホ」という回答が最も多く、肯定群については90%を越える等、現在の学生にとって撮影機器はスマホが一般的であることが分かりました。
・・・ 約9割が現像をしていないと感じている
写真の現像に対する意識について、9割以上の学生が現像をしていないと感じている事が分かりました。
子育て中の保護者と比べても否定群の比率が高く、学生にとって現像があまり意識をされていないことが分かりました。
・・・ 頻度の差はあれど半数以上が現像している
現像の意識については「全くそう思わない」という回答が過半数でしたが、 頻度の違いはあっても半数以上が現像したことがあることが分かりました。
・・・ 定期的ではないが作られている
写真の現像同様に、積極的に作っている学生については少ないものの、アルバムづくりは過半数の学生が経験しており、 スマホが主流の現在の学生においても、写真の現像とアルバムづくりはまだ行われている活動であることが分かります。
・・・ 写真・アルバムに対するイメージは肯定的
全項目において、肯定回答が半数以上を占めていることから、写真やアルバムに関しては肯定的なイメージを持っていることが分かります。
また、「そう思う」の比率の高い質問から、将来において家族との関わりに写真やアルバムを用いたいと考えていることが分かります。
・・・ 多くの学生の家庭にはアルバムが存在する
アルバムの所持数については、各項目において過半数以上が所持していると回答している所から、
現代の学生の家庭においても何らかのアルバムが存在していることが分かりました。
・・・ 全体を通して家族感は良好と言える
調査の中では、学生の家族への親密性は高い傾向にあり、日常的に会話が交わされていることが分かりました。
反対に、少ないながらも、親密性が低い家庭と家族不和を抱えている家庭が同数程、存在しています。
家族愛の傾向については、実に9割近くの学生が、家族へ向けての愛情、また自分へ向けられる愛情について肯定的に捉えていることが分かりました。
・・・ 意識的に成熟した学生が多い印象
調査においては学生の多くは、自身に課題に取り組む持続力があると感じている一方で、難解な課題については事前に回避する傾向にあることが分かります。
また、全体を通して自己同一性が高く、思考判断の基礎として自分の考えを持つことへの重要性を認識しています。
感情においては、多くの学生が感情をコントロールができると認識している一方で、
落ち着いた行動に関しては否定的な回答が増加し、平常心を保つ事に難しさを感じる傾向にあることが分かります。
自立性においては、肯定・否定がほぼ半数になり、学生にとって一人暮らしや精神的な自立に必要なことは、明確に分かっていないことが分かりました。
協調性においても、全体的に肯定が高く、集団生活において学生が問題なく活動でき、周囲との協調と言う点でも、成熟した学生が多いことが分かります。
アルバムの所持冊数と保護者の子育て感との関係性について明らかにする為、写真・アルバムとの関わりや育児の状況といった項目を独立変数とし、 「育児不安」、「ポジティブな子育て感」、「子育てへの不満」という3因子を従属変数とした重回帰分析を行いました。
独立変数 | 育児不安 | ポイジティブな子育て感 | 子育てへの不満 |
---|---|---|---|
アルバムの利用 | -0.397 | 1.977 * |
0.618 |
パートナーとの関係 | -4.721 *** |
4.409 *** |
-4.664 *** |
ママ友との交流 | 4.459 *** |
-5.412 *** |
2.948 ** |
一眼レフカメラ | -0.445 | 2.811 ** |
0.776 |
コンパクトデジカメ | -0.803 | 0.606 | 1.289 |
デジタルとアナログの違い | 0.145 | 0.532 | -2.087 ** |
数値について |
【育児不安】 |
【ポジティブな子育て感】 |
【子育てへの不満】 |
この結果、アルバムの利用率の高い保護者では「ポジティブな子育て感」を抱きやすいことが分かりました。
また、一眼レフカメラを利用する保護者も「ポジティブな子育て感」を持つ傾向があることが分かりました。これはつまり、専門的な機器を利用する程、写真やアルバムへの意識が高いという事を示しています。
「学生の家族感と自身についての設問に関して因子分析を行なった結果、 親密性・愛情・家族不和の3つの因子が検出されました。
この3因子の得点について、アルバムを所持している学生は、そうでない学生に比べて得点が高くなる傾向が見られました。 この結果は、アルバムがあることでがある事で学生は家族に対して、ポジティブな関係を築き、良い感情を抱くようになる事を示しています。
学生の、各アルバムの所持数、成長過程の中での写真経験と写真に対する意識、家族感の項目を独立変数とし、 学生の自己効力感についての項目を従属変数として、重回帰分析を行いました。
独立変数 | 持続力 | 自己同一性 | 感情統制 | 自立性 | 協調性 |
---|---|---|---|---|---|
自分のアルバム | -1.693 + |
-1.325 | 1.28 | -1.387 | 0.428 |
よく写真を撮って貰った | 0.392 | 1.13 | -0.155 | 2.122 * |
0.488 |
写真を撮られるのが好き(子どもの頃) | 1.033 | 0.085 | -0.381 | -1.204 | 1.083 |
写真を撮られるのが好き(現在) | 1.449 | 1.522 | 1.68 + |
2.448 * |
3.137 * |
将来写真をたくさん撮りたい | -0.714 | 1.205 | 0.386 | -0.734 | 3.383 *** |
親密性 | 0.172 | 0.936 | -0.746 | 1.547 | -0.299 |
愛情 | 1.193 | 0.304 | 1.099 | -2.407 * |
1.56 |
家族不和 | -3.076 * |
-0.531 | -4.675 *** |
-0.338 | -1.786 + |
数値について |
・持続力については逆転項目(マイナスほど高く、プラスは低い) |
この結果、「よく写真を撮って貰った」や「現在、写真を撮られることが好き」と回答した学生は「自立性」が高くなる傾向にあり、「協調性」も高くなっていることが分かりました。
これは養育の中で、写真をよく撮られたり、撮られることにポジティブな学生は、自立性や強調性が高くなる傾向にあることを示しています。
また、本人のアルバムを所持している学生も「持続力」が高まる傾向にあることが分かりました。
また、「将来、写真をたくさん撮りたい」という傾向の学生ほど「協調性」が高い傾向にあり、写真を撮るという事で他者との関わりを持とうとしていることが見受けられます。
将来的に、子育ての中でもその意識を持つことは、子育てに対する積極性の現れと言えます。
デジタルへの変化で写真は日常行為になり、出力は特別な存在へと変化。
写真を撮る機器が、カメラからスマートフォンに変化した事で、それまでカメラや写真が持っていた特別な意味合いが薄れ、撮影することは日常の生活行為の一部と言える存在になりました。
子育てにおいても、手軽なデジタル写真が主流になった事で「撮る」ことが目的となり、アナログ写真の意識は、より感情的な存在へと変化したと言えます。
写真・アルバムの所持数が多い家庭は、子育てに肯定的に取り組んでいる傾向がある。
写真・アルバムの所持数の多い家庭は、子育てにおいて肯定的に取り組んでいる傾向にあり、この二つは比例する関係であることが明らかとなりました。
デジタル写真は必ずしも紙に出力する必要がなく、またイメージにおいてアナログの写真は利便性が低いと認識されているにも関わらず、
多くの保護者がアルバムづくりの経験がある点は、合理性では測れない特別な意味が認知されていると言えます。
また、アルバムづくりの過程で子育てや自身の振返りを行い、その後の子育てへの意欲を向上させていることも考えられます。
成長の中で、写真・アルバムと多く関わってきた学生は自立性や強調性などが高い傾向にあり、育児支援ツールとしても活用が期待できる。
アルバムの所持数と子育て感の肯定的な関係は明らかになりましたが、「子育て意識の向上」や「育児不安の減少」などの保護者への影響については、この調査から効果は認められませんでした。
これは、写真やアルバムづくりが、思い出づくりや子育ての一環であり、保護者が自身に何らかの効果を期待しているものではないからと言えます。
一方で、成長の中で写真・アルバムと関わってきた学生については、明確な効果が明らかとなりました。
そこで、育児支援ツールとして、写真・アルバムを捉えると以下の様に考えることができます。
子どもの写真を撮る為に、子どもと関わる機会を多く設ける事で自立性を育てる。
写真を現像し、アルバムを作る事で、子どもの持続性を養い、課題や新しい事に継続して取り組むようになる。
写真撮影へのポジティブな感情を育てる事で、協調性を持った子どもに育つ。
これらは短期的に効果が出るものではありませんが、長期的に継続することで、子どもへの効果が明らかになることが考えられ、 結果的に写真撮影・アルバムづくりは保護者にとっての「子育て不安」等への解消の切っ掛けになりえると言えます。
以上のアンケート調査の結果と、その分析・考察をまとめると以下の様になります。
写真・アルバムの作成率や所持率が低下する中で、ポジティブな子育て観を持っている保護者の指標になりえます。
アルバムの所持数が多い程、家庭への愛着が強まる傾向から、家族からの関心を持たれているという自信に繋がります。また、思い出形成により愛情を形成することが考えられます。
写真・アルバムを持つ学生であるほど、他に比べ「自立性・協調性」という他者との関係性に関する力が強化されていることが分かりました。
これらの結果から、「写真・アルバムと関わることは子どもの成長にとって、自己効力感が高く、他者との関わりに長けた人格形成に良い影響を与えるといえる」と言う事が明らかになりました。
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